Let's learn about Sheep

その1      分娩準備と管理        家畜改良センター十勝牧場種蓄第一課 めん羊係長   河野博英様


今年もいよいよ分娩の季節が近づいてきました。産まれた子羊がみんな元気に育ってくれることは誰もが願っていることでしょう。 一般にめん羊は他の家畜に比べて難産も少なく「お産が軽い」といわれます。しかし,死亡する子羊の多くは分娩から初期哺育時期に集中しているのはなぜでしょう。そして子羊の損耗を減らすためには何をすれば良いのでしょうか。新生子羊が置かれている状況と
その問題点を見つめ直してみることが,事故を防止するための手がかりとなるものと思われます。
1.新生子羊が直面している問題
1)体温が低下しやすい
 子羊は被毛が短く断熱効果に乏しいため,寒冷条件下では体温が奪われやすく,すぐに活力が低下してしまいます。しかも,生まれたときには羊水で体が濡れているため,羊舎内に吹き込むすきま風が命取りとなることさえあります。
 2)エネルギーの蓄積が少ない
 新生子羊のエネルギー要求量は高く,正常な体温を維持するためには,成羊に比べて体重当たり約3倍ものエネルギーを必要とするといわれます。しかし,体脂肪をほとんど持たない新生子羊が体内に蓄えているエネル ギーは極僅かであり,初乳を飲めない状態が続けば,数時間のうちに瀕死の状驚に陥ってしまいます。
 3)病気に対する抵抗性がない
 新生子羊は初乳を飲むことによって,初めて病気に対する抵抗性を獲得します。 初乳には多量の免疫グロプリンが含まれており,子羊が初乳を飲むことで,抗体が小腸壁から吸収されます。しかし,生後12時間を過ぎると抗体が吸収されなくなるため,出来るだけ早く充分な量の初乳を朽取しなければなりません。また,初乳は常乳に比べて脂肪分が高く,エネルギー供給の面からも重要であるはか,胎便を排出するための下剤としての作用もあります。 初乳の最低必要量は体重1kg当たり50mJといわれています。
 2.分娩準備
 子羊は正常に産まれたとしても,以上のように環境温度,栄養状態,抗病性などの問題を抱えています。 子羊の損耗を減らすためには,分娩前からこれらの問題に対する対策を講じておく必要 があります。
 1)妊娠羊の汚毛刈り
 これから分娩を迎える妊娠羊について,分娩予定日の約1カ月前には,陰 部と乳房周辺の汚毛を刈り取ります。

 これは,分娩間際にみられる乳房や陰部の 変化を観察しやすくし,分娩看護作業を容易 にすることと,新生子羊が母羊の乳房を探り 当てやすくするために行うものです。
 2)羊舎内の準備  
分娩に先立って,羊舎内の敷さワラを交 換,補充しておきます。床を清潔に保つこと は病気に対する抵抗性を持たない新生子羊に とって重要なことであり,羊水で濡れた子羊 の体を早く乾かすためにも,常に鞋燥した状 磐にしておくことが必要です。また,子羊が 冷たいすきま風にさらされないよう,羊舎の 破損部分の補修も忘れずに行っておきましょ      よう,分娩時に必要となる器具器材,薬品類 等も早めに準備しておきます。  分娩を終えた母子羊を囲う分娩柵,群分け を行うための良柵,子羊に固形飼料を与える ためのクリープ柵,分娩柵内で使用する桐槽 や水槽(バケツ)など,必要な数を揃えてお きましょう。  
 3.分娩兆候の観察
 分娩時期が近付けば,難産などによる事故 を防止するため,給脚寺問以外にも見回りを 行います。ただし,夜間の見向りに慣れてい ないめん羊は,照明を点けるだけで驚いてし まい,思わぬ事故につながることもあります から,早めに点灯して見向り作業に慣らして おくとともに,めん羊を不用意に驚かさぬよう,静かに観察して下さい。分娩が近付くにつれて,母羊の乳 房が大きくなり,腹部を観察してい ると胎子が動いているのが外見から も分かるようになります。  分娩数日前には,陰部が充血して 緩み,乳房も著しく腫大し,腹部は 下垂してきます。この ような変化が見られれば,いよいよ 分娩が近づいた証拠であり,特に注 意して観察しておく必要がありま す。

4.分娩の経過
 分娩直前の母羊は呼吸が速くなり,自分の 腹部を眺めては不安そうに鳴き声をあげる, 前肢で敷ワラを掻き集める,落ち着きなく寝 たり起きたりを繰り返し,時折いきむような 行動が見られます。陣痛の開始です。  まず初めに陰部から茶褐色の液が詰まった 尿膜が現れ,母羊が寝たり起きたりするうち にこれが破れます(一次破水)。その後,10〜 15分で胎子を包む羊膜が押し出されて破れ, 羊水が流れ出します(二次破水)。続いて胎子 の娩出ですが,正常な分娩では胎子は図3の ように前肢2本の上に頭を乗せた姿勢であ り,母羊ははとんど横たわったままの状皆 で,強い陣痛とともに胎子の前肢と頭,胸部, 腹弘 後肢の順で押し出されます。  通常,胎子の娩出までに要する時間は一次 破水から1時間以内ですが,それ以上たって も娩出されない場合や,胎子の姿勢に異常を 認めた場合には,分娩介助が必要となりま す。

 5.分娩後の処置
1)粘液の除去と臍帯の消毒  
分娩が終了すると,通常,母羊はすぐに起 き上がって子羊の体表についた粘液を試め取 ります。もし母羊が立ち上がらない場合は母 羊の鼻先に子羊を移動させますが,それでも 舐めない場合は,タオルなどで体を拭いてや ります。子羊の体温低下を防ぐためには出来 るだけ早く体を寵かすことが大切です。  また,分娩時に切れた臍帯は細菌感染を予 防するため,ヨードチンキで消毒しておきま す。
 2)分娩柵内への移動
分娩を終えた母子羊を予め用意しておいた 分娩柵内に移動します。このとさ,子羊を母 羊の鼻先にかざしながらゆっくりと移動する と,母羊を簡単に誘導することが出来ます。
 3)吸乳行動の確認  
通常,子羊は生後30分以内には自力で母 羊の乳頭を探り当て,最初の吸乳に成功しま すが,なかなか吸乳出来ない場合には,子羊 の口に乳頭を含ませて初乳を吸わせます(乳 付け)。このとき,母羊の乳頭の先にはロウ状 の栓があるので,乳頭をしごいてこの栓を取 り除いて下さい。また,既に分娩しているも のを発見した場合も,母羊の乳頭の栓を確認 し,まだ初乳を拝取していないようであれば 乳付けを行って下さい。  初乳は新生子羊にとってエネルギーの補給 と抗体獲得のために不可欠なものであり,出 来るだけ早く朽取させることが大切です。
 4)母子羊の観察
 分娩を終えた母子は,3〜7日間を分娩柵内 で管理します。元気な子羊を育てるためには この問にしっかりと親子関係を確立し,子羊 は生さるための活力を身につけなければなり ません。新生子羊は栄養源を全て母乳に依存 しており,母羊に異常があれば,すぐに子羊 は衰弱してしまいます。このため,子羊の状 悪や吸乳行動はもちろんですが,母羊の健康 状態にも充分注意しておくことが重要です。  健康な子羊は健康な母羊から生まれます。


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